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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1182号 判決 1999年5月27日

控訴人(原告) わかば保険代行株式会社(旧商号・兵庫保険代行株式会社)

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 神田靖司

同 大塚明

同 中村留美

同 内芝義祐

被控訴人(被告) Y

右訴訟代理人弁護士 宅島康二

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

当事者の求める裁判、当事者の主張及び証拠関係は、別紙「事実整理」に記載のとおりである。

理由

一  主位的請求について

1  請求原因について

(一)  兵庫銀行が平成二年八月二〇日西洋環境開発の銀行預金口座に一二〇〇万円を振込送金したことは当事者間に争いがない。この事実と<証拠省略>及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。右証拠中この認定に反する部分は採用することができず、そのほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) レスターはゴルフ会員権の売買斡旋等を業としていた会社であり、その代表取締役はBであった。Bは、レスターにおいてできるだけ多く本件ゴルフ会員権を取得しようとしたが、右会員権の募集は個人会員権に限られ、その審査も厳しかったから、レスターではこれを取得することができなかった。ところで、本件会員権は西洋環境開発が経営するゴルフクラブの会員権であったが、兵庫銀行は、西洋環境開発との間で、右会員権の募集及びその購入資金(会員資格保証金支払資金)の融資について業務提携をしていた。そして、レスターは、かねてから兵庫銀行新大阪駅前支店と取引があり、その支店長であったCとは同郷の関係にもあり親しくしていた。そこで、Bは、平成二年七月前に、本件会員権の取得についてCに協力を求めたところ、Cはこれを承諾した。すなわち、右両名間で了解された方法は、レスターがBの知人等の個人から買主名義を借り、右個人名義で入会を申し込むが、取得した会員権はレスターの資産とする、入会金(三〇〇万円)及び会員資格保証金(一二〇〇万円)はレスターが負担して支払う、右支払金中入会金はレスターが各個人名義で現金で支払うが、会員資格保証金は各個人名義で前記兵庫銀行の提携ローンにより全額の融資を受けて支払い、右融資の分割弁済はレスターの負担でする、名義の貸主には一切の負担をかけないというものであった。

(2) そこで、Bは、D(レスターの取引先の部長)及び被控訴人(レスターの顧問税理士)から、何も負担をかけないという条件で名義貸しの承諾を得た。被控訴人は、Bから、C支店長自身が承知し同人も名義人となる予定であることを聞かされ、右名義貸与に問題はないと思い、これを承諾したものである。なお、被控訴人は、その前にもBの依頼により何回もレスターがゴルフ会員権を購入するのに被控訴人の名義を貸与していた。Bは、C自身にも同様に名義貸しを依頼し、その承諾を得た。但し、Bは、レスターが兵庫銀行新大阪駅前支店に高額の協力預金をすることを約した。そして、Bは、以上の三名のほかBを含む何名もの個人名義で西洋環境開発に本件会員権購入の申込(入会申込)をしたところ、平成二年七月及び八月に、右四名について入会承諾を得ることができた(被控訴人は入会審査を受けるのに自ら右会社に出向いている。)。そして、Bは、同月、レスターの出捐で、右各個人名義で、入会金三〇〇万円宛を西洋環境開発に振込送金し、更に、Cの紹介で金融業者から高利で三億円の融資を受け、これ(三億円弱)を兵庫銀行新大阪駅前支店で定期預金にして協力預金をした。なお、当時ゴルフ会員権の取引が活発で、本件会員権についても値上がりが見込まれ、関係者は危険はないものと思っていた。

(3) 他方、Bは、D、B及び被控訴人の名義で兵庫銀行新大阪駅前支店に前記提携ローンの申込をした。右ローンでは控訴人の信用保証を得ることとされていたので、右保証の依託も同時にBが各個人名義でした。そして、兵庫銀行はCが自ら担当し又は部下に指示して手続を進め、右申込を承諾し、控訴人も承諾した。右ローン及び信用保証依託契約中被控訴人名義に係るものの内容は、控訴人が請求原因1、2として主張しているとおりである。そこで、控訴人は、請求原因3のとおり連帯保証契約を結んだ。右各申込は、申込人側はBが手続をし、D及び被控訴人は兵庫銀行及び控訴人とは直接の折衝そのほかのことをしていないし、兵庫銀行及び控訴人側からも右両名に面接あるいはそのほかの方法により直接関係を持ったことはない。

(4) 兵庫銀行は、右ローン契約による融資として、D、B及び被控訴人の名義で、平成二年八月二〇日、西洋環境開発の銀行預金口座に一二〇〇万円宛を振込送金した。

(5) ただし、Cの関係では、同人は、Bから前記入会金の送金をして貰った後に、名義貸与をやめることにした。そのため、Cについては、前記ローンは組まれなかった。かえって、Cは、その後他の支店に転勤した後、転勤先で自ら一二〇〇万円の融資を受け、独自に会員資格保証金を支払うとともに、レスターに対し前記三〇〇万円を返済した。

(6) 被控訴人分を含むローンの返済は、兵庫銀行新大阪駅前支店に開設された各個人名義の普通預金口座から自動引落しの方法によってされていたが、右預金口座には、レスターが毎月必要な支払資金を送金していた。しかし、レスターは支払に窮するようになり、平成四年一〇月六日以降分の支払が滞った。そのため、控訴人は、兵庫銀行から、請求原因5のとおり請求の予告を受けている。

(7) なお、本件ゴルフ会員権は、レスターの資産として計上されていたが、レスターは経営に窮するようになって、これを処分した。

(8) 控訴人は、Dに対して本件と同様の請求原因のもとに保証債務の事前求償を求める訴えを提起したが、第一審では、Dと兵庫銀行との間の前記消費貸借には民法九三条但書が類推適用されるべきであるから無効であるとの理由で敗訴した。控訴人は、控訴するとともに、本件と同じ不当利得返還請求を予備的に追加したが、控訴棄却及び右予備的請求棄却の判決があり、右判決は上告されず、平成八年三月一五日一審判決が確定している。

(二)  右認定によると、請求原因をすべて認めることができる。被控訴人は、本件各契約の当事者はレスターであると主張するが、被控訴人は自らを当事者として本件各契約締結の申込をすることを許諾し、兵庫銀行及び控訴人はこの申込を承諾したのであるから、被控訴人が契約当事者であることは明らかである。

2  抗弁1について

被控訴人は、本件消費貸借契約の真の当事者は兵庫銀行とレスターであるにもかかわらず、レスターに代えて被控訴人を当事者と仮装する旨合意したものであるから、通謀虚偽表示により無効であると主張する。しかし、前記認定のとおり、控訴人は自らを当事者として本件消費貸借契約締結の申込をすることを許諾し、兵庫銀行は右申込を承諾したのであるから、右主張のような仮装あるいは意思と表示との間の不一致があるということはできない。したがって、右主張は採用することができない。

3  抗弁2について

被控訴人は、被控訴人には本件消費貸借契約による債務を負担する意思がなく、兵庫銀行のC支店長自身がこのことを知っていたから、民法九三条但書の類推適用により、本件消費貸借契約は無効であると主張する。

そこで、検討するに、前記認定によると、本件消費貸借契約については、レスターと被控訴人の間で、レスターが右契約に基づく債務をすべて負担して履行し、被控訴人は何も負担しないことが合意されていたのであり、Cは兵庫銀行新大阪駅前支店長として自ら又は部下に指示して右申込の処理を担当し、レスターと被控訴人との間に右のような約束があることを承知しながら、右申込を承諾したのである。しかも、Cは、右の承諾をするについて、レスターに巨額の協力預金をして貰い、かつ、少なくとも本件消費貸借契約が締結される前後ころまでは、自らもレスターのため被控訴人と同じ立場でレスターに名義を貸すことを承諾していたのである。そして、Cのこのような業務処理は、当時のゴルフ会員権の取引状況に鑑み危険性のないものと認識されていたのであり、兵庫銀行新大阪駅前支店の成績の向上に資するものであったということができる。また、銀行の支店長は一般に支店の業務遂行の全般について広範な権限を持っているものと認識されているということができるところ、被控訴人は、Bから、支店長のCが承知し自らも名義貸しをする予定であることを聞かされたこともあって、自らは何ら負担をしなくともよい関係にあるものと考え、本件の名義貸しに応じたものである。このような本件消費貸借契約締結の経緯に鑑みると、兵庫銀行において被控訴人が契約当事者であることに基づいて本件消費貸借契約の履行を求めることは信義則上許容しがたいところということができるのであり、本件消費貸借については、民法九三条但書の規定を類推適用して、これを無効と認めるのが相当である。そうすると、控訴人はその主張の連帯保証債務を負担しないのであるから、右債務を負担することを前提とする本件主位的請求は、理由がないことに帰する。

控訴人は、右認定判断を批判し種々主張するが、右主張はおおむねCの認識及びCの関与の態様について前記認定と異なる事実を前提とするものであるから、採用することができず、そのほかに右認定判断を覆すに足りる証拠はない。

二  予備的請求について

主位的請求について判断したとおり、本件消費貸借契約は無効というべきであるから、控訴人には、控訴人主張の兵庫銀行に対する債務は発生していない。また、控訴人は、兵庫銀行に対して控訴人主張の債務を履行したのでもない。そうすると、控訴人には損失が生じていないのであるから、その余の点を判断するまでもなく、控訴人の予備的請求は理由がない。

三  結論

以上の次第で、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がなく、また、控訴人の当審における予備的請求は理由がない。よって、控訴費用の負担について民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤英継 裁判官 大塚正之 裁判官孕石孟則は転補されたため署名、押印することができない。裁判長裁判官 加藤英継)

<以下省略>

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